終章:クリスタルの海底

2015-02-09

心のマザー

(短編小説「心のマザー」連載中です。カテゴリの心のマザー短編小説を開いて順に読んで下さい。)

気がつけばここは海の中。長い体をくねらせながら大海原を泳いでいる。

深い深い海の底。
そこは太陽の光は届かないけど、暗黒ではなく、むしろ地上よりも光に満ちて溢れている。

海底のあちこちに輝くクリスタルが散りばめられている。
クリスタルは海の底のもっと深い内部から光を受け、輝きを放っている。

この輝きはどこかで見たことがある。
そう、それは私たち自身の中に、奥深く眠っているものと同じ。
そう憶った時、辺りがより一層輝きを増し始めた。

心の奥から込み上げる歓びを解き放って、長い体でぐるぐると回転して渦を作る。
華やかな体をくねらせて、どこまでも踊り泳いで行く。

(短編小説「心のマザー」終わり)

長い間、時間を開けてしまいましたが、お読み頂き、本当にありがとうございました!

第三章:時空を越えて

2014-12-17

心のマザー

(短編小説「心のマザー」連載中です。カテゴリの心のマザー短編小説を開いて順に読んで下さい。)

懐かしいような高音の響きが身体中を駆け巡る。
音に身を委ねながら、流れるがままに時を渡って行く。
じんわりと込み上げて来る歓びが、時はもうすぐだと告げる。

目を開けられなほどの眩しい白い光が一面を照らし出し、ゆっくりと七色に変わって行く。
周りを見渡すと、何千億、いや、もっと多数か、とにかく数えきれない人々がふわりと地面から舞い上がり、歓び踊っていた。

私自身もその一人である。
次の瞬間、また大多数の人々がどこかへ消えて行った。
そこからまた新しい人々が現れ、また消えて、何度も大勢の人々が入れ替わって行く。

そんな光景が一段落したその時、金色に輝く神々しい如来が姿を現した。
如来は私たちの頭の中に語りかける。

「この場に集い来て、今私の声を聴いているあなたたちは、後世で共に同じ時代に、人間の体を持ち生まれ来るであろう。
蒼く輝く美しい星が終末を迎える時がやがて来る。
その時を救うのは、そう、あなたたちなのです。
どうか共に1つの愛を誓って、1つの生命体の意識を持って、その星を救いたまえ。
蒼き星の行方はあなたたちの手にかかっている。
あなたたちが、私と同じ1つの光の存在だということを、どうか忘れないで下さい。」

ある一人が如来に質問を投げかけた。
「この今という時の記憶は、後世でも持っていられるのでしょうか?」
「それはあなた達次第です。今この時を思い出す鍵となるものが一つ。それは、クリスタル六角柱。これを手にした時に、記憶が蘇ることがあるでしょう。」
そう告げ終わると、大地に大振動が起き始めた。
そして、どこからか大きな波がやって来て、全てを呑み込んで行き、私はそのまま意識を失った。

(終章へとつづく)

第二章:闘争の世界

2012-01-13

心のマザー

短編小説「心のマザー」連載中です。)

演奏会の朝、空はまるでいま生まれたばかりのように澄み渡り、窓からは光のカーテンが差し込んでいた。

天の神様はきっと今日の演奏会を祝福してくれているに違いないと思った。

会場には団員7名と指揮者1名で、計8名のメンバーが集まった。

「今日はこの8名で、最高の演奏会を開催しよう!」

指揮者は振り返り、客席に一人座る母に向かって言った。

「今日はお集まり頂き、本当にありがとうございます。ただいまより我が交響楽団の演奏会を始めます。」

深呼吸をひとつして、指揮者がタクトを振り上げた時の一瞬の静寂に、幾重もの厚みを感じ、そこから新しい世界へと入り込んで行くような気がした。

演奏をしながら私たちは、海を漂い、大地を駆け抜け、天へと昇り、そして宇宙の異次元へと行く。私たちはみんな宙に浮いて、輪になって、曲を奏でている。その周りをオーロラのような七色の壁が囲んでいる。そしていつの間にか8名だったはずのメンバーが、一つの大きな塊になり、宇宙を飛んでいく。

遠くで、何発もの爆発音が聞こえてくる。この音は何だろう。どこか哀しい音に聞こえる。仲間同士だったはずの人と人が、対立して撃ち合っている。どうして・・・どうして・・・。

曲が終盤に差し掛かり、やがて私たちはまたこの会場へと戻ってくる。

 

大きな拍手が聞こえてきた。母は、立ち上がり、涙しながら拍手を送っている。

私たちは晴れやかな気持ちで立ち上がり一礼をした。

その時、ドカンと大きな音を立てて、会場の扉が砕け散った。

もうすぐそこで戦いは始まっているのだ。

冷静で厳粛な面持ちで、指揮者がタクトを振り上げ、次の曲が始まった。

また私たちは、一つの塊となって、宇宙を駆け巡る。

そこへ、風と共に大きな光がやって来た。それは光だと思っていたけれど、違う。

それはどこか懐かしいような、思わず涙がこぼれてしまう。この温かい気持ちは何だろう。

遠い記憶が呼んでいる。「心のマザーのもとへ」「心のマザーのもとへ」

 

心のマザーは、辺りを一気に包み込んだ。

楽団のみんなも母も、外で戦いを起こしている兵士たちも、遠くへ避難したこの土地のみんなも、そのまた遠くにいた見知らぬ人たちも。

(第三章へとつづく)

 

第二章:闘争の世界

2011-09-19

心のマザー

短編小説「心のマザー」連載中です。)

目を開けると、私はベッドの中に横たわっていた。ここはレースで飾られた洋風の部屋で、天井には天使の絵画が描かれていた。
トントンとドアをノックして、一人の女性が入って来た。遠い遠い記憶が、渦を巻きながら蘇って来る。おそらくこの人は、私のお母さんだろう。いや、お母さんに間違いない。
「起きたのね、ナタリー。急に倒れたからびっくりしたけど、先生に診てもらったらなんでもないそうだったから良かったわ。ここのところ、忙しかったから疲れが出たのね。気分はどう?」
微笑んで答えた。「もう大丈夫。」
「良かったわ。でも今日はゆっくり休んでいなさい。」と言って、母は部屋を出た。
目覚めてから完全に頭が冴えて、もう眠れそうになかったけど、おとなしくベッドに横たわることにした。
まっすぐ前を見つめると、天井の天使が微笑みかけてくれる。
かぜをひいて寝込んだ時はいつも、1日中、天井の天使たちと会話をしていた。
寝ているだけの24時間はとても長かった。そうして、いつからか天井の天使たちと会話をするようになったのだ。

翌朝目覚めると体調はすっかり良くなっていて、元気な声で母に挨拶をした。
「おはよう。もうすっかり良くなったよ。」
「元気になってよかった。今日は演奏会の練習に行けそうね。」
「うん、もうすぐ本番だし休んでいられない。行ってくるね。」
と言ってハープを持って家を出た。
ナタリーは幼い頃から弦楽器が大好きだった。きっかけは4歳の頃、バイオリン奏者の父のクラッシックコンサートを見に行った時から。帰り道、自分も演奏したいと言ってどの楽器にするか1週間悩んだ上で、ハープを選んだ。童話に出てくるハープを弾く人魚に憧れて、ハープに決めたのだ。4歳からハープを弾き始めて、ちょうど今年で10年が経つ。
父の楽団は、大人57名で構成されていた。
近頃、隣国で戦争が始まり、多くの成年男性が兵士に召集され、楽団の男性メンバーは父を含め、ほとんどが徴兵されてしまった。残ったメンバーは、女性24名と、男性6名。
そこで、団員補充に14歳以上が入団できることになった。
1か月ほど前、入団試験に合格し、私もこの楽団のメンバーとなった。
1週間後には、新楽団初の演奏会がある。その日に向けて、指を赤くしながら毎日練習に明け暮れていた。

午前の練習を終えてお昼休み、私はいつものように家から持って来たサンドウィッチとお水を持って、小高い丘へと向かった。そこには1本の大きな木があった。その木はまるで、長年この土地で生きて来た者達の全ての魂が詰まっているように感じられた。葉は鮮やかな緑に生い茂り、幹は見たこともないほど太くがっしりとしていて、見つめているだけでその生命の力を与えられているような、そんな感じがした。私はいつもこの大木の下で昼食をとっている。ここにいると、大きな安心感に包まれる。すぐ隣の国で、いま戦争が起きているとは思えないくらいに、ここはとても静かで穏やかな空気に包まれている。ここから眺める山も湖も、ただ静かに佇んでいて、ずっとこの土地を見守っているように感じられた。

昼食を食べ終えると、すぐに練習室へと戻った。まだ誰も戻っていなくて時計を見ると、午後の練習開始まであと15分あった。ハープを持って個人練習を始めようとしたところ、バイオリンの男性が1人戻って来た。眼鏡をかけていて、細身で色白、一見気弱そうに見えるけど、その眼鏡の奥の瞳はどこか強さが感じられる。
「カミーユさんの娘さんだよね?僕はバジルって言うんだ。お父さんの弟子みたいなものだ。よろしくね。」
「はい、私はナタリーと言います。よろしく。」
「君はまだ若いのにいい演奏をするね。きっとお父さんの才能を継いだんだね。顔もよく似ている。」
「ありがとうございます。」と言い終わらないうちに、男性は横を向いて何度も咳込んだ。
「失礼。喘息持ちでね。おかげで戦争に行かずに済んだ。初めて喘息持ちで良かったと心から思ったよ。」
「大丈夫ですか?お大事にして下さい。」
「いつもの事だから大丈夫だよ。もう本番も近いし、さあ練習、練習。みんなが来るまでちょっとここのところを二人で合わせてみようよ。」と、バイオリンとハープが順にソロを取る箇所を指して言った。
私の演奏はまだ荒削りだったけど、二人の呼吸は合っていて心地よいハーモニーを奏でていた。バジルさんがうまく私に合わせてくれていたのだろう。ハープの音とバイオリンの音が重なりあって、晴れた大空へと向かって螺旋の橋を架けて行くような、そんなイメージが浮かんで来て、心は舞い上がり陶酔した。

今日も丸一日練習をして、家路へと着いた。うちに帰ると、母が何やら荷物をまとめていた。
「どうしたの?何かあった?」
「今日、報せが届いたの。ここももうすぐ戦乱に巻き込まれるかもしれないから・・・。いつでも出られるようにあなたも荷物をまとめておきなさい。」
「戦乱って?ここは山も森も湖も美しくて、鳥はいつも楽しそうに歌いながら飛んでいるし、通りからは子どもたちの笑い声が響いているのに、こんなに素晴らしい土地で戦争を起こすっていうの?そんなの・・・そんなの・・・。」泣きそうな私を抱きしめて母は言った。
「あなたの言う通りよ。どんな理由があったとしても、戦争なんて間違っている。私たちはいつも平和を求めて来たけど、結局、国家はまた争いを起こしてしまった。そして、国家が決めてしまったことは、もう私たちの力では止められないの。」
「そんなの嫌だ。私は何が起きてもここを離れないわ。」
母はもう一度、強く私を抱きしめて言った。
「ナタリー、あなたの気持ちはよく分かるわ。今日はもう休んで明日ゆっくり話しましょう。」

翌朝、何も言わずに家を出て、練習場へと向かった。いつもより早く着いたせいか、まだ人は少ない。壁に掛った時計を見ると午前の練習開始まで、あと30分ほどあった。私はその30分間、ひとり無心で演奏を続けた。
指揮者がやって来て、「おはようございます。」と声をかけられ、ハッとして時計を見上げると、開始時間となっていた。周りを見渡すと、団員はまだ半分くらいしか集まっていない。
「おはようございます。今日は人が少ないですね。」
「そうだね。残りのみんなはもう、どこかに避難してしまったのかな。まあいいよ。ここにいるみんなで最高の演奏会をしようじゃないか。」
「はい、がんばります!」と答えると同時に、自分の心に気が付いたように思えた。そうだ、私はこの演奏会で、いま自分にできる最高の演奏をしたいのだ。演奏会をやり切りたいのだ。
このままどこかに避難するのは嫌だ。せめて、この演奏会が終わるまでは。
今日ここに来ているみんなは、同じ気持ちだったに違いない。
いつもは無口な一人の女性が、静かに立ち上がり、話し始めた。
「何があっても、私は演奏を続けます。たとえこの楽団が私ひとりになったとしても、私は演奏を続けます。」
他の男性が立ち上がり、一つ咳をして、話し始めた。振り向くと、バジルさんだった。
「僕も同じ気持ちです。この喘息がなければ、今頃戦乱の中、息絶えていたかもしれない身だ。
でも、僕は現にいまこの楽団にいて、生きている。この身は全て、音楽に捧げて行きたいと思っている。この土地を愛し、まだここに留まる人たちもいる。僕はその人たちに、音楽を届けて行きたい。」
一人の女性が立ち上がり拍手をし、また一人の女の子が拍手をして、次第にみんなで立ち上がり、大きな拍手が広がった。

「ただいま。」トーンの高い元気な声が吹き抜けの天井まで響いた。まるでいつもと変わらない日常のように時が流れている。
「おかえり、ナタリー。今日も遅くまでお疲れ様。なんだか元気そうね。今日の練習はどうだった?」
神妙な面持ちで言った。「お母さん、私・・・演奏会が終わるまではここに残ることに決めたの。わがままかもしれないけど、これだけは譲れないんだ。お母さんがどんなに止めても、私はここに残って、楽団のみんなと最高の演奏会をやり遂げようって決めたの。」
一つ息を呑み込んで母は言った。「・・・そう。あなたの気持ちはよく分かったわ。演奏会、見に行くからがんばってね。楽しみにしているわよ。」ニコッと笑って、肩を叩いた。
壁に立て掛けられた父のバイオリンが、部屋の中を見守るように佇んでいる。
父が今ここにいたとしたら、きっと私と同じ気持ちだったに違いない。

演奏会の前々日、数名の兵士が家に訪ねて来た。
「こんにちは。まだ避難されていなかったんですね。この辺りもそろそろ危険になります。
今日中にはここを出て、どこか遠くへ避難して下さい。」
「はい、荷物はまとめてあります。早いうちに出るようにしますね。」と母が言った。
「それでは!」ピシッと綺麗な姿勢で敬礼をして、足並みを揃えて兵士達は去って行った。
その姿は、まるで子供の頃に見たおもちゃの兵士のように、寸分違わぬ規則正しい足並みで、これまで感じたことのないようなある種の尊敬の念が生まれた。
「お母さん、明後日の演奏会見に来てくれるよね?」
「もちろん、見に行くわよ。あなたを置いてここを出るとでも思った?」と笑いながら言った。
「ううん。でもちょっと心配になっただけ。」
「明日、明後日と、身の周りに危険が起きないように、そして、演奏会が大成功するように、一緒に祈りましょう。」
「うん、明後日はきっと素晴らしい演奏会になると思うから、楽しみにしていてね。」
ローソクに火を灯して、母と私は心静かに祈りを捧げた。

序章:記憶の海

2011-09-19

心のマザー

青く透き通った海の中、私は一人何かを探して泳いでいる。
誰一人いない、海の生物もいない広い広い海。どこまで泳いでも、その先に見えるものは海だけだった。海の底を見つめると、そこにはピアノが沈んでいた。そして、その先にはギターが沈んでいる。さらに深く潜って行くと、そこには大学生の私がいた。

軽音楽部の引退前、最後の演奏会で1000人のお客様を前にして、市民ホールのステージに立っている。演奏会のフィナーレ、バンド演奏をバックにみんなで作った歌を合唱している。
入部してからこれまでの3年間の深く濃い思い出が走馬灯のように蘇り巡っている。肩を組み合って、感涙に咽び、心を全てさらけ出すように歌っている。かけがえのない青春の日々、全てが輝き希望に燃えていた。この宝の仲間たちがいれば、社会の荒波も越えて行けると思った。クライマックスを告げるように、会場の両サイドからキャノン砲が打ち上がる。
「バーン!!」という音と共に、周りの景色がみるみる変わって行き、そこには高校生の私がいた。

学校の掲示板で奨学金の案内を見つめている。大学進学を決めた私は、そこに掲載された国や地方が運営する奨学金、個人奨学金等全てに応募することにした。
家に帰り早速机に向かって作文を書いている。個人奨学金に応募するに当たって、将来の夢をテーマに作文を提出しなければならなかった。将来の夢は決まっていた。シンガーソングライターになること、そして、その後には本を執筆して出版すること。
どんな逆境があろうとも、あきらめないで必ず夢を叶えて行こうと、作文を書きながら改めて心に誓った。
面接を終え、学校からの通知が届き、無事に個人奨学金も受けられることに決まった。大喜びして空中へと舞い上がり、そのまま徐々に縮んで行き、次は中学生になった。

ポータブルCDプレーヤーにビートルズのCDを入れて、部屋の机で頬づえをついて、ヘッドホンで大音量で聞いている。
一枚聞き終えた後、音楽に酔いしれて、まだ頭の中でメロディが鳴り続けているようで、目を閉じ頭を揺らしている。
ふと何かを思い立ったように目を開け、鉛筆を手に取り、机に向かってメモをし始めた。
すらすらと鉛筆を滑らせて、途中で何度か手を止めた。どうやら詩を書いているようだ。
メモを書き終えた後、満足顔で立ち上がり、それから、みるみるうちに小さくなって行った。
そしてまた周りの景色も変わって行き、そこには小学生の私がいた。

引っ越しを繰り返し3つ目の小学校へと転校が決まり、初めての登校日。小学4年生の冬、今度はみんなと打ち解けられるだろうかと不安を抱えながら、うつむき登校している。
クラスの朝礼で先生からみんなに紹介され、席へと着いた。1時間目が終わった休み時間、一人の女の子がニコニコしながら私の席まで来て話しかけてくれた。赤い毛糸のあやとりを持って、器用な指使いでいろんな遊びを教えてくれた。彼女は、私の初めての親友となり、それからいつでも二人は一緒にいた。二人の波長はとても合って、いつも楽しい時間を共有することができた。彼女とは一生親友でいたいと思った。ちょうど1年が過ぎた頃、突如、彼女の転校が決まった。
溢れる悲しみを堪えて別れを告げ、家に帰って一人でわんわんと泣いていた。
泣きながら次第にしゅるしゅると縮んで小さくなり、今度は幼稚園児になった。

幼稚園でもらうおやつを一つ残して、大事にハンカチで包みポケットに入れ、お迎えを待っている。たくさんのお母さんたちが次から次へとお迎えに来て、子供たちを連れて帰る。
ようやく私のお母さんもお迎えに来て、家路へと着いた。帰ってすぐに一人で飛び出し、家から歩いてすぐのお地蔵さんのところへと向かっている。ポケットからおやつを取り出してお供えし、いつものようにお祈りをしていた。「しあわせになりたい」と。

この頃いつも泣いてばかりで、自分を取り巻く全ての世界に恐怖を感じていた。
見上げると、いつもお地蔵さんは微笑みかけてくれた。太陽の光を背に受けて輝くお地蔵さんを見つめているうちに、向こう側の世界へと吸い込まれて行く。深い闇へと滑り落ち、強く眩しい光を通り抜けて、まだ見ぬ世界へと堕ちて行った。

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