2011-09-19

心のマザー

青く透き通った海の中、私は一人何かを探して泳いでいる。
誰一人いない、海の生物もいない広い広い海。どこまで泳いでも、その先に見えるものは海だけだった。海の底を見つめると、そこにはピアノが沈んでいた。そして、その先にはギターが沈んでいる。さらに深く潜って行くと、そこには大学生の私がいた。

軽音楽部の引退前、最後の演奏会で1000人のお客様を前にして、市民ホールのステージに立っている。演奏会のフィナーレ、バンド演奏をバックにみんなで作った歌を合唱している。
入部してからこれまでの3年間の深く濃い思い出が走馬灯のように蘇り巡っている。肩を組み合って、感涙に咽び、心を全てさらけ出すように歌っている。かけがえのない青春の日々、全てが輝き希望に燃えていた。この宝の仲間たちがいれば、社会の荒波も越えて行けると思った。クライマックスを告げるように、会場の両サイドからキャノン砲が打ち上がる。
「バーン!!」という音と共に、周りの景色がみるみる変わって行き、そこには高校生の私がいた。

学校の掲示板で奨学金の案内を見つめている。大学進学を決めた私は、そこに掲載された国や地方が運営する奨学金、個人奨学金等全てに応募することにした。
家に帰り早速机に向かって作文を書いている。個人奨学金に応募するに当たって、将来の夢をテーマに作文を提出しなければならなかった。将来の夢は決まっていた。シンガーソングライターになること、そして、その後には本を執筆して出版すること。
どんな逆境があろうとも、あきらめないで必ず夢を叶えて行こうと、作文を書きながら改めて心に誓った。
面接を終え、学校からの通知が届き、無事に個人奨学金も受けられることに決まった。大喜びして空中へと舞い上がり、そのまま徐々に縮んで行き、次は中学生になった。

ポータブルCDプレーヤーにビートルズのCDを入れて、部屋の机で頬づえをついて、ヘッドホンで大音量で聞いている。
一枚聞き終えた後、音楽に酔いしれて、まだ頭の中でメロディが鳴り続けているようで、目を閉じ頭を揺らしている。
ふと何かを思い立ったように目を開け、鉛筆を手に取り、机に向かってメモをし始めた。
すらすらと鉛筆を滑らせて、途中で何度か手を止めた。どうやら詩を書いているようだ。
メモを書き終えた後、満足顔で立ち上がり、それから、みるみるうちに小さくなって行った。
そしてまた周りの景色も変わって行き、そこには小学生の私がいた。

引っ越しを繰り返し3つ目の小学校へと転校が決まり、初めての登校日。小学4年生の冬、今度はみんなと打ち解けられるだろうかと不安を抱えながら、うつむき登校している。
クラスの朝礼で先生からみんなに紹介され、席へと着いた。1時間目が終わった休み時間、一人の女の子がニコニコしながら私の席まで来て話しかけてくれた。赤い毛糸のあやとりを持って、器用な指使いでいろんな遊びを教えてくれた。彼女は、私の初めての親友となり、それからいつでも二人は一緒にいた。二人の波長はとても合って、いつも楽しい時間を共有することができた。彼女とは一生親友でいたいと思った。ちょうど1年が過ぎた頃、突如、彼女の転校が決まった。
溢れる悲しみを堪えて別れを告げ、家に帰って一人でわんわんと泣いていた。
泣きながら次第にしゅるしゅると縮んで小さくなり、今度は幼稚園児になった。

幼稚園でもらうおやつを一つ残して、大事にハンカチで包みポケットに入れ、お迎えを待っている。たくさんのお母さんたちが次から次へとお迎えに来て、子供たちを連れて帰る。
ようやく私のお母さんもお迎えに来て、家路へと着いた。帰ってすぐに一人で飛び出し、家から歩いてすぐのお地蔵さんのところへと向かっている。ポケットからおやつを取り出してお供えし、いつものようにお祈りをしていた。「しあわせになりたい」と。

この頃いつも泣いてばかりで、自分を取り巻く全ての世界に恐怖を感じていた。
見上げると、いつもお地蔵さんは微笑みかけてくれた。太陽の光を背に受けて輝くお地蔵さんを見つめているうちに、向こう側の世界へと吸い込まれて行く。深い闇へと滑り落ち、強く眩しい光を通り抜けて、まだ見ぬ世界へと堕ちて行った。

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