2012-01-13

心のマザー

短編小説「心のマザー」連載中です。)

演奏会の朝、空はまるでいま生まれたばかりのように澄み渡り、窓からは光のカーテンが差し込んでいた。

天の神様はきっと今日の演奏会を祝福してくれているに違いないと思った。

会場には団員7名と指揮者1名で、計8名のメンバーが集まった。

「今日はこの8名で、最高の演奏会を開催しよう!」

指揮者は振り返り、客席に一人座る母に向かって言った。

「今日はお集まり頂き、本当にありがとうございます。ただいまより我が交響楽団の演奏会を始めます。」

深呼吸をひとつして、指揮者がタクトを振り上げた時の一瞬の静寂に、幾重もの厚みを感じ、そこから新しい世界へと入り込んで行くような気がした。

演奏をしながら私たちは、海を漂い、大地を駆け抜け、天へと昇り、そして宇宙の異次元へと行く。私たちはみんな宙に浮いて、輪になって、曲を奏でている。その周りをオーロラのような七色の壁が囲んでいる。そしていつの間にか8名だったはずのメンバーが、一つの大きな塊になり、宇宙を飛んでいく。

遠くで、何発もの爆発音が聞こえてくる。この音は何だろう。どこか哀しい音に聞こえる。仲間同士だったはずの人と人が、対立して撃ち合っている。どうして・・・どうして・・・。

曲が終盤に差し掛かり、やがて私たちはまたこの会場へと戻ってくる。

 

大きな拍手が聞こえてきた。母は、立ち上がり、涙しながら拍手を送っている。

私たちは晴れやかな気持ちで立ち上がり一礼をした。

その時、ドカンと大きな音を立てて、会場の扉が砕け散った。

もうすぐそこで戦いは始まっているのだ。

冷静で厳粛な面持ちで、指揮者がタクトを振り上げ、次の曲が始まった。

また私たちは、一つの塊となって、宇宙を駆け巡る。

そこへ、風と共に大きな光がやって来た。それは光だと思っていたけれど、違う。

それはどこか懐かしいような、思わず涙がこぼれてしまう。この温かい気持ちは何だろう。

遠い記憶が呼んでいる。「心のマザーのもとへ」「心のマザーのもとへ」

 

心のマザーは、辺りを一気に包み込んだ。

楽団のみんなも母も、外で戦いを起こしている兵士たちも、遠くへ避難したこの土地のみんなも、そのまた遠くにいた見知らぬ人たちも。

(第三章へとつづく)

 

▼このページをシェアする▼
Copyright© イーリア(ヒーリングミュージック・アーティスト) All Rights Reserved.